市中肺炎にはβラクタム系抗菌薬にマクロライド系抗菌薬を追加投与した方がよいですか?(CQ)
市中肺炎(community-acquired pneumonia:CAP)に対してβラクタム系抗菌薬にマクロライド系抗菌薬が追加されることがある。これは、βラクタム系抗菌薬がカバーできないマイコプラズマ、レジオネラ、クラミジアといった非定型肺炎の起因菌をカバーすることが目的であるが、果たしてどのくらいの効果があるのか、本当に必要なのかを知るために論文を読んでみることとした。
PMID:27338144
論文のPECOは?
- P: 市中肺炎患者
- E: βラクタム系抗菌薬+マクロライド系抗菌薬による治療
- C: βラクタム系抗菌薬のみによる治療
- O: 総死亡
論文のチェックポイント
評価者バイアス
➡ 2人の評価者が独立して評価している
出版バイアス
➡ PubMed、Embase、Web of Science、Cochrane databasesを使って文献の検索が行われた。調査された言語は英語のみ。Funnel Plotは使用されている。
元論文バイアス
➡ RCT(オープンラベル)2報、非RCT1報、観察研究11報によるメタ解析。
異質性バイアス
➡ 結果におけるI²は比較的大きい印象。ブロボグラムはばらつきがあるように見える。
結果はどうだったか?
主要アウトカム(死亡率)
E群 vs C群:OR 0.80(95%CI:0.69-0.92)(I²=59%)
サブ解析(RCTのみ、または、RCT以外における死亡率に関する解析)
・RCTのみによる解析
E群 vs C群:OR 1.12(95%CI:0.73-1.70)(I²=35%)
・RCT以外による解析
E群 vs C群:OR 0.76(95%CI:0.66-0.87)(I²=52%)
サブ解析(重症度別の死亡率に関する解析)
・重症
E群 vs C群:OR 0.75(95%CI:0.65-0.86)(I²=55%)
・軽症・中等症
E群 vs C群:OR 1.12(95%CI:0.87-1.45)(I²=0%)
考察
主要アウトカムでは有意に差がありマクロライド系抗菌薬の追加にて死亡率が低下することが示唆されたが、サブ解析におけるRCTのみの解析では有意差がなく、RCT以外では有意差がついた。一方重症度別では、重症例では有意差があり、軽症・中等症例では有意差がなかった(しかも、2報のRCTはいずれも非重症例に含まれていた)。また、有意差のついているものに関してはいずれもI²が50%台と、中等度の異質性となっている。
この結果より、市中肺炎にエンピリックにマクロライド系抗菌薬を追加した方が良い、という結論にはならないと考える。重症例に対しては効果的かもしれない(軽症・中等症で死亡につながることはそれほど多くないような気がするので、死亡以外のアウトカムも重要かもしれない。これについては個別の文献を読んでみようと思う)。異質性が高く、またブロボグラムにばらつきがあることから、ある条件下では有効性が見いだせるかもしれない。
ちなみに、「成人肺炎診療ガイドライン2017」のCQ08「CAPのエンピリック治療において、β-ラクタム系薬にマクロライド系薬を併用することは推奨されるか。」の作成時に行われたメタ解析がこの論文となったようである。このCQに対しての推奨の強さは「実施しないことを弱く推奨する。ただし、重症例においては実施することを弱く推奨する。」となっている。